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鹿屋簡易裁判所 昭和39年(ハ)80号 判決 1965年2月02日

原告 鹿児島県自由労働組合連合会大隅地区支部

被告 全日本自由労働組合鹿児島県支部高山新分会

主文

被告は原告に対し金四万参千五百九拾五円及び之に対する昭和三十九年一月一日より完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告代表者は主文同旨の判決を求める旨申立て、その請求の原因として、

一、被告組合は以前高山新自由労働組合と称して、原告である鹿児島県自由労働組合連合会(以下県自労連と略称する)大隅地区支部の構成員であり、右支部費の分担金を支払う義務を負うていたが、被告組合は昭和三十九年一月九日に原告たる右支部より事実上脱退し、爾後全日本自由労働組合鹿児島支部(以下全日自労県支部と略称する)に加盟し、同支部高山新分会と称している。

二、ところが被告組合は原告組合より脱退迄の間に納入義務のあつた次の支部費の分担金を納入しない。

(イ)  昭和三十六年四月一日より昭和三十八年三月三十一日迄の大隅地区支部費分担金の内納入済の金額を除く残額金一万千百七十円

(ロ)  昭和三十八年四月より同年十二月迄の前同分担金一万三百二十五円

(ハ)  昭和三十八年四月支部大会において議決された、昭和三十八年六月と、同年十二月の二回に納入すべき斗争資金特別分担金二万二千百円

以上合計金四万三千五百九十五円。

よつて右金四万三千五百九十五円と、之に対する昭和三十九年一月一日以降完済に至る迄民事法定利率年五分の遅延利息の支払を求めるために本訴に及ぶと陳述し

三、被告組合の主張に対し、被告は前記(イ)(ロ)(ハ)の各分担金の未納ある旨自白しながら、後に該自白を撤回したが、原告は右自白の撤回に同意せずこれを利益に援用する。

又被告組合は原告組合より脱退したのは昭和三十八年十二月九日であり、従つて同月分の支部費の納入義務はない旨主張するが、仮に被告の脱退届が昭和三十八年十二月に為されたとしても、脱退の効力は翌昭和三十九年一月一日に生ずるので、昭和三十八年十二月分迄の支部費納入義務に変動はない。尚被告組合が原告組合に加盟中における被告組合の組合人員は、昭和三十六年四月より昭和三十七年十二月迄は百名、昭和三十八年一月より同年三月迄は八十九名、昭和三十八年四月より同年十二月迄は八十五名であつて、被告組合の支部費分担額は、昭和三十七年九月迄は一人一ケ月五円、同年十月より昭和三十八年三月迄は一人一ケ月十円、同年四月より同年十月迄は一人一ケ月十五円、同年十一月以降一人一ケ月十円の各割合であつて、昭和三十八年四月の支部大会において議決した特別分担金は、昭和三十八年四月より向う二ケ年間六月の夏期手当支給時に一人当り百円、十二月の冬期手当支給時に一人当り百五十円の割合にて負担することに決定したもので、被告組合は前叙のとおり昭和三十九年一月より脱退したから、右初年度分のみの請求をするものである。と述べた。

四、(立証省略)

被告代表者は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、

一、原告主張事実中、原告主張どおり被告組合が元原告組合の構成員であり、原告主張どおりの組合人員(尤も後に実数は若干減少)であつたが、後に原告組合より脱退して全日自労県支部に加盟し、同支部高山新分会となつた事実は認めるが、被告組合が原告組合より脱退したのは昭和三十八年十二月九日である。次に被告組合が右脱退前に原告主張の支部負担金たる前記(イ)(ロ)の未納分があつたこと、及び前記(ハ)の昭和三十八年四月支部大会において特別分担金を徴収することの議決があつたこと、並びに被告組合がこれを納入していない事実はこれを認めるが、被告組合は前述のとおり昭和三十八年十二月原告組合より脱退したから、その以前の各種負担金支払義務は消滅した。と陳述し

二、第三回口頭弁論において、先に被告が前記各支部負担金の未払分の残存する事実を認めた自白は、被告代表者の錯誤に基くものであり、真実に反する自白であるから撤回する。

三、被告組合は、法人たる全日自労の一構成分子であり、被告組合が本件債務を高山新自由労働組合から引きつぐという決定もなされていない。従つて、かりに高山新自由労働組合が原告組合に対して何等かの債務を負つていたとしても、原告がこれを被告に請求するのは失当である。

尚斗争資金特別分担金二万二千百円は、仮に原告主張の如き議決がされたとしても、この種の分担金は、分会を構成している個個の組合員が支払義務を負うものであつて、分会たる団体が支払義務を負うものではない。被告組合は右議決に基く特別分担金を個々の組合員から集金してもいないから被告組合としてはこれを支払う義務はない。

よつて本訴請求に応ずることはできない。と陳述した。

四、(立証省略)

理由

一、被告組合が元高山新自由労働組合と称していた単位組合であり、原告組合たる県自労連大隅地区支部の構成員であつたこと、原告組合に加盟中の被告組合の組合人員は原告主張どおりであつたこと、及び右支部加盟中は原告主張どおり各種支部費の負担金を支払う義務があつたこと、並びに被告組合が昭和三十八年十二月中脱退届をして事実上原告組合より脱退し、全日自労県支部に加盟し、同支部高山新分会と称している事実は当事者間に争なきところである。

二、而して、被告組合が原告組合に加盟中原告組合に納入すべき原告主張の、(イ)昭和三十六年四月一日より昭和三十八年三月三十一日迄の支部費分担金の内残額金一万千百七十円、及び(ロ)昭和三十八年四月より同年十二月迄の前同分担金一万三百二十五円、並びに(ハ)昭和三十八年四月支部大会において議決された昭和三十八年六月と同年十二月の二回に納入すべき斗争資金特別分担金中昭和三十八年度分金二万二千百円、以上合計金四万三千五百九十五円について、被告組合は右各負担金の未納分の存在を認める旨自白しながら、後に右自白は真実に反し錯誤に基く自白であるとて自白の撤回をしたが、原告より右自白の撤回に異議を申立てたのみならず、証人石本信敦の証言(第二回)、同証言によつて、記載内容も真正に成立したものと認め得る甲第四号証の一、二、成立に争なき甲第五号証に依れば、被告組合の右自白が真実の事実に反するとは認められず、その他右自白が錯誤に基くものであることの被告の立証はないから、被告組合の自白の撤回はその効なしと言うべく、したがつて被告組合は原告主張どおりの前記(イ)(ロ)(ハ)の各分担金の支払義務を負うていたと認めるのを相当とする。

三、次に被告組合は、仮りに右の如き分担金の未払分があつたとしても、被告組合は昭和三十八年十二月九日の脱退により原告組合の構成員でなくなつたから、これにより既存の分担金債務は消滅したと抗弁するので取調べて見るに、証人有村福蔵の証言、及び同証言によつて成立を認め得る甲第一号証、第二号証によれば、被告組合の脱退は支部大会の承認を要するところ、その承認があつたことの被告組合の主張立証はないところであるが、既に被告組合は原告組合より事実上脱退しているのであるから、仮りにこれが適法に脱退したものとしても、昭和三十八年十二月末日の経過によつて脱退の効果を生じたものと認めるのが相当であり、脱退前支払義務を生じた各種分担金等の支払義務は、組合の規約、又は組合の決議等特別なる免除事由がない限り消滅しないと認めるのが相当である。右認定を左右すべき被告の立証はなく、被告の右抗弁は採用しない。

四、次に被告組合は、被告組合は法人たる全日自労県支部の構成分子たる同支部高山新分会となつているのであるが、被告組合はその前身たる高山新自由労働組合から本件債務を引継ぐという決定もしていないから、本件債務の支払義務はないと主張するところであるが、弁論の全趣旨によれば、被告組合はもともと高山町内における自由労働者が団結して高山新自由労働組合と称する単位組合を組織し、その単位組合として原告組合の構成員となつていたところ、成立に争なき甲第三号証に依れば被告組合は、単位組合として原告組合より脱退の上、全日自労県支部に加盟し、同支部高山新分会と名称を変更したのみであつて、単位組合としての実体に変更はないのであるから、前段に認定の理由を考え合せると、債務の承継を生ずる余地なく、被告組合の右主張は採用できない。

五、次に被告は、原告主張の斗争資金特別分担金の如き分担金は分会を構成している個々の組合員が支払義務を負うものであり、分会たる団体が支払義務を負うものではない、と主張するので審究するに、甲第一号証及び甲第二号証並びに当事者弁論の全趣旨に依れば、県自労連は、県下各市町村における自由労働者、主として各市町村施行の失業対策事業に雇はれる労働者が、その属する市町村の単位を以つて単位自由労働組合を組織し、県下の各単位組合が結合して連合会を組織し連合会の内に大隅半島の肝属郡に属する市町村の各単位組合を以つて大隅地区支部を組織したものであることが認められる。被告組合の組織労働者、単位組合の地域的範囲、および全日自労県支部の組織も同様である。

右の如き自由労働組合に対する使用者は、その組合の存する市町村であり、労働運動の主体性は各単位組合にあるというべきである。然し乍ら各単位組合に共通の利益、目的を達する為めの強力、広範な運動を展開する必要上その連合体として、鹿児島県自由労働組合連合会を組織し、或は全日本自由労働組合鹿児島県支部を組織し、同様の必要から大隅地区支部や県支部を組織したものであつて、県連合会として又地区支部として夫々労働運動をするには、これに必要なる経費を要することは勿論であり、それ等の費用は、経常費にせよ臨時的な分担金にせよ、結局末端の構成員たる個々の組合員の醵出によつてまかなわれるものではあるけれども、連合会に対しても、地区支部に対してもその費用の分担は特別の事情、例えば有志の寄付による旨の決議等のない限り、その組織する単位組合が組合として直接その支払の責任を負うべきものと解するのを相当とする。そうでなければ労働組合の円滑なる活動、統制ある運営は到底期待し得ないからである。

而して原告主張の昭和三十八年度の斗争運動資金特別分担金は臨時的なものであるが、甲第五号証及び証人石本信敦の証言(二回)に依れば、同年四月十四日大隅地区支部の定期大会において、単位組合の組合員数の割合によつて負担するよう議決された事実が認められる。よつて被告の右主張は採用できない。

六、被告組合の全立証を以つても以上の認定を覆えすに足らず、その他以上の認定を左右すべき被告組合の主張立証はない。右認定の事実に依れば、その余の点につき判断する迄もなく原告の本訴請求は理由があるから之を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 永田武義)

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